笹流ダム 北海道:日本初のバットレスダムの歴史と魅力を徹底解説
北海道函館市にある笹流ダムは、大正時代に建設された日本初のバットレスダムとして、歴史的にも技術的にも極めて重要な土木遺産です。現在も函館市民の水がめとして現役で稼働しながら、春は桜、秋は紅葉の名所として多くの市民や観光客に親しまれています。本記事では、笹流ダムの歴史、構造、観光情報まで、あらゆる角度から詳しく解説します。
笹流ダムの基本情報と概要
ダムの位置と河川系統
笹流ダムは、函館市街地を貫流する二級河川・亀田川水系笹流川に建設されたダムです。亀田川の河口から上流約8kmの地点、本流と支流笹流川との合流点付近に位置しています。この立地は、函館市の水道水源として最適な場所として選定されました。
施設概要
笹流ダムは函館市企業局上下水道部が管理する水道専用ダムです。ダム番号は14番で、以下のような諸元を持っています:
- 竣工年:1923年(大正12年)
- 型式:バットレスダム(扶壁式中空鉄筋コンクリートダム)
- 目的:上水道専用
- 堤高:バットレスダムとしては国内第2位
- 堤頂長:バットレスダムとしては国内第1位
- 堤体積:バットレスダムとしては国内第1位
水道専用ダムとしては、北海道では函館市の奥沢ダムに次いで2番目、全国でも15番目に建設されたダムです。
日本初のバットレスダムとは
バットレスダムの構造と特徴
バットレスダム(Buttress Dam)とは、水圧を受ける面を格子状の補助的な壁(扶壁=バットレス)で支える構造の軽量ダムです。「扶壁式ダム」とも呼ばれ、その最大の特徴は使用するコンクリート量を大幅に削減できる点にあります。
通常の重力式コンクリートダムでは、ダム全体を厚いコンクリートで満たす必要がありますが、バットレスダムは水圧を受ける表面板と、それを支える格子状の壁(扶壁)だけで構成されるため、コンクリート使用量を約30〜40%削減できます。
大正時代の技術的挑戦
笹流ダムが建設された大正12年(1923年)当時、コンクリートは非常に高価な建設資材でした。そのため、コンクリートを節約できるバットレスダム方式は、経済的に大きなメリットがありました。
しかし、当時の日本国内にはバットレスダムの建設例がなく、この型式の採用は異例のものとして大きな注目を集めました。設計者の小野基樹は、海外の技術文献を研究し、日本の気候や地質条件に適合させる形で設計を行いました。
国内に6基しか存在しない希少性
現在、日本国内にバットレスダムは笹流ダムを含めてわずか6基しか存在しません。これは、その後の技術発展により、より施工が容易な重力式ダムやアーチ式ダムが主流となったためです。そのため、笹流ダムは極めて貴重な土木遺産として高く評価されています。
設計者・小野基樹の功績
小野基樹の経歴
笹流ダムの設計及び工事監督を担当したのは、後に東京市水道局長となる小野基樹です。小野基樹は日本の近代水道史において重要な役割を果たした技術者であり、笹流ダムでの経験は彼のキャリアにおいても重要な一歩となりました。
小河内ダムへの道
小野基樹は笹流ダムでの成功を足がかりに、後年、東京都の小河内ダム(奥多摩湖)の設計も手がけることになります。小河内ダムは東京都民の重要な水源として現在も稼働しており、小野基樹の技術者としての実績を示す代表作となっています。
笹流ダムで培ったダム建設の経験と技術が、より大規模なプロジェクトである小河内ダムの成功につながったと言えるでしょう。
笹流ダムの歴史
建設の背景
明治時代後期から大正時代にかけて、函館市は急速な都市化が進み、安定した水道水源の確保が急務となっていました。それまでの水源だけでは増加する人口の需要に対応できなくなり、新たなダム建設が計画されました。
笹流川は水量が豊富で水質も良好であったため、水道水源として最適な場所として選定されました。
大正12年の完成
1923年(大正12年)、約3年の工事期間を経て笹流ダムが完成しました。この年は奇しくも関東大震災が発生した年でもあり、日本の土木技術にとって大きな転換点となった時期でした。
完成当時、笹流ダムは日本初のバットレスダムとして大きな話題となり、全国から多くの技術者が視察に訪れました。
昭和59年度の改修工事
竣工から約60年が経過した1984年度(昭和59年度)、笹流ダムは大規模な改修工事を実施しました。この改修により、ダムの安全性と機能性が大幅に向上し、現代の基準に適合する施設として生まれ変わりました。
改修工事では、コンクリートの補強、漏水対策、計測設備の更新などが行われましたが、歴史的価値を損なわないよう、バットレスダムとしての外観と構造は可能な限り保存されました。
「赤川の水源地」としての歴史
笹流ダムは古くから「赤川の水源地」として函館市民に親しまれてきました。赤川は笹流川の別称であり、この地域の地名としても使用されています。
完成以来100年以上にわたり、函館市民の生活を支える重要な水源として機能し続けており、その役割は今日まで変わっていません。
土木遺産としての価値
土木学会選奨土木遺産への認定
笹流ダムは、その歴史的・技術的価値が認められ、土木学会選奨土木遺産に認定されています。具体的には、2001年に「函館市の水道施設群」の一部として選定されました。
土木学会選奨土木遺産とは、土木遺産の顕彰を通じて歴史的土木構造物の保存に資することを目的とした制度で、日本の土木技術の発展過程を示す重要な構造物が選定されます。
近代水道百選とダム湖百選
笹流ダムは、土木学会選奨土木遺産のほかにも、「近代水道百選」や「ダム湖百選」にも選定されています。これらの認定は、笹流ダムが単なる産業施設ではなく、日本の近代化を象徴する文化財としての価値を持つことを示しています。
現役稼働する歴史的構造物
笹流ダムの最大の特徴は、100年以上の歴史を持ちながら、現在も現役の水道施設として稼働している点です。多くの歴史的構造物が博物館や記念碑として保存されるのに対し、笹流ダムは今なお函館市民の生活を支える実用的な施設として機能しています。
この「生きた土木遺産」としての側面が、笹流ダムの価値をさらに高めています。
笹流ダム前庭広場の魅力
市民の憩いの場
笹流ダムの前には広大な前庭広場が整備されており、函館市民の憩いの場として長年親しまれています。この広場は樹木と緑の芝生に覆われ、自然豊かな環境が保たれています。
休日には家族連れやカップル、写真愛好家など、多くの人々が訪れ、思い思いの時間を過ごしています。
春の桜の名所
笹流ダム前庭広場は、函館市内でも有数の桜の名所として知られています。春になると、広場周辺に植えられた桜が一斉に開花し、美しい景観を作り出します。
ダムの格子状の独特な構造と桜のコントラストは、他では見られない独特の風景を生み出し、多くの花見客で賑わいます。
秋の紅葉スポット
秋には周辺の樹木が色づき、紅葉の名所としても人気があります。赤や黄色に染まった木々とバットレスダムの灰色のコンクリートが織りなす景色は、芸術的な美しさを感じさせます。
紅葉の時期には、カメラを持った多くの写真愛好家が訪れ、ダムと紅葉のコラボレーションを撮影しています。
広場の利用と施設
笹流ダム前庭広場では、直火以外の火気使用が認められており、バーベキューなどを楽しむことができます。ただし、利用にあたっては函館市のルールを守り、ゴミは必ず持ち帰るなど、マナーを守ることが求められます。
広場には以下の施設が整備されています:
- 駐車場:100台以上収容可能な無料駐車場
- トイレ:清潔に管理された公衆トイレ
- 自動販売機:飲料の自動販売機
- ベンチ:休憩用のベンチ多数
これらの施設により、快適に過ごすことができる環境が整っています。
ダムの構造と技術的特徴
バットレス構造の詳細
笹流ダムのバットレス構造は、以下のような要素で構成されています:
- 上流面板:水圧を直接受ける鉄筋コンクリート製の板
- 扶壁(バットレス):上流面板を支える格子状の壁
- 基礎:岩盤に固定された頑丈な基礎構造
この構造により、重力式ダムと比較して大幅にコンクリート使用量を削減しながらも、十分な強度を確保しています。
格子状の美しい外観
笹流ダムを特徴づけるのは、その格子状の独特な外観です。扶壁が等間隔に並ぶ姿は、まるで巨大な建築物のような印象を与え、機能美を感じさせます。
この格子状の構造は、単なるデザインではなく、構造力学的に最適化された形状であり、「形態は機能に従う」という近代建築の原則を体現しています。
耐震性と安全性
昭和59年度の改修工事では、現代の耐震基準に適合するよう、構造の補強が行われました。大正時代の設計でありながら、適切な維持管理と改修により、現代の安全基準を満たす施設として機能し続けています。
アクセス情報と観光ガイド
所在地
住所:北海道函館市赤川町(亀田川水系笹流川)
公共交通機関でのアクセス
函館市電や函館バスを利用してアクセスできます:
- 函館駅から:函館バス赤川系統に乗車
- 最寄りバス停:「赤川小学校」下車、徒歩約10分
バスの本数は限られているため、事前に時刻表を確認することをおすすめします。
自動車でのアクセス
函館市街地から車で約20〜30分の距離です。国道5号線から赤川方面へ向かい、案内標識に従って進みます。
無料駐車場が100台以上完備されているため、自動車でのアクセスが便利です。特に家族連れやグループでの訪問には、車の利用がおすすめです。
見学のベストシーズン
笹流ダムは年間を通じて訪問できますが、特におすすめの時期は:
- 春(4月下旬〜5月上旬):桜の開花時期
- 秋(10月中旬〜下旬):紅葉の見頃
- 夏(6月〜8月):緑豊かな景観とピクニックに最適
冬季も訪問可能ですが、積雪があるため、足元に注意が必要です。
見学時の注意点
笹流ダムは現役の水道施設であるため、以下の点に注意してください:
- ダム本体への立ち入りは制限されている場合があります
- 水質保全のため、貯水池での遊泳や釣りは禁止されています
- ゴミは必ず持ち帰りましょう
- 火気を使用する場合は、直火は禁止です
- 周辺は自然豊かな環境なので、動植物を大切にしましょう
ダムファンにとっての魅力
希少なバットレスダムの見学
日本国内にわずか6基しか存在しないバットレスダムを実際に見学できることは、ダムファンにとって貴重な機会です。しかも、笹流ダムは日本初のバットレスダムという歴史的価値も持っています。
写真撮影スポット
ダムの格子状の構造は、様々なアングルから撮影できる魅力的な被写体です。特に以下のような撮影ポイントがおすすめです:
- 正面からの全景:バットレス構造の全体像を捉える
- 斜めからのアングル:扶壁の立体感を強調
- 桜や紅葉とのコラボレーション:季節感のある写真
- 夕暮れ時のシルエット:ドラマチックな雰囲気
ダムカード
函館市企業局では、笹流ダムのダムカードを配布している可能性があります。ダムカードは、ダムファンの間で人気の収集アイテムです。配布場所や条件については、函館市企業局上下水道部に事前に問い合わせることをおすすめします。
周辺の観光スポット
函館市内の観光名所
笹流ダムを訪れた際には、函館市内の他の観光スポットも合わせて訪問するのがおすすめです:
- 函館山:函館を代表する夜景スポット
- 五稜郭:星型の西洋式城郭
- 金森赤レンガ倉庫:歴史的建造物を活用した商業施設
- 函館朝市:新鮮な海産物が楽しめる市場
- トラピスチヌ修道院:日本初の女子修道院
赤川地区の自然
笹流ダム周辺の赤川地区は、函館市内でも自然が豊かな地域です。ダム見学と合わせて、自然散策やハイキングを楽しむこともできます。
函館市の水道の歴史
近代水道の発展
函館市の水道は、日本の近代水道の発展史において重要な位置を占めています。笹流ダムは、その発展の中核を担ってきた施設です。
奥沢ダムとの関係
北海道で最初の水道専用ダムは、函館市の奥沢ダムです。笹流ダムはそれに続く2番目のダムとして建設され、函館市の水道供給能力を大幅に向上させました。
現在も、奥沢ダムと笹流ダムは、函館市の重要な水源として機能し続けています。
現代の函館市の水道システム
笹流ダムは、現代の函館市の水道システムにおいても重要な役割を果たしています。100年以上前に建設された施設が、適切な維持管理により今なお現役で稼働していることは、当時の技術水準の高さと、継続的な保守の重要性を示しています。
まとめ:笹流ダムの価値と未来
笹流ダムは、日本初のバットレスダムとして歴史的・技術的に極めて重要な土木遺産であり、同時に函館市民の生活を支える現役の水道施設でもあります。
大正12年の竣工以来100年以上にわたり、函館市民の水がめとして機能し続けてきたこのダムは、土木学会選奨土木遺産、近代水道百選、ダム湖百選など、数々の認定を受けています。
バットレスダムという希少な型式、設計者・小野基樹の功績、「赤川の水源地」として親しまれてきた歴史、そして春の桜や秋の紅葉が楽しめる前庭広場など、笹流ダムには多面的な魅力があります。
函館を訪れる際には、五稜郭や函館山などの定番観光スポットだけでなく、この歴史的価値の高い笹流ダムにもぜひ足を運んでみてください。格子状の美しい構造を持つダムと、周辺の自然が織りなす景観は、きっと忘れられない思い出となるでしょう。
現役で稼働する「生きた土木遺産」として、笹流ダムは今後も函館市民の生活を支えながら、その歴史的価値を後世に伝えていくことでしょう。